「接種拒否なら集中治療辞退を」=フランスで議論、揺らぐ医療倫理―新型コロナ

【パリ時事】新型コロナウイルスに感染した入院患者の増加により、病院職員の人手不足が深刻となっているフランスで、ワクチン接種拒否者は集中治療を辞退すべきだとする医師の提案が議論を巻き起こしている。医療現場でも賛否は分かれており、仏紙フィガロは「医療倫理が崩壊しつつある」と警告している。

発端は、パリの大学病院のアンドレ・グリマルディ名誉教授が2日付の日曜紙ジュルナル・デュ・ディマンシュに宛てた寄稿。グリマルディ氏は「新型コロナ以外の患者の集中治療室滞在期間は平均4~5日間なのに対し、新型コロナ患者は2~3週間に及ぶ」と指摘。その上で「ワクチンを接種しない自由を選択した人は、集中治療も辞退すべきではないか」と提案した。

ベラン保健相によれば、仏国内のワクチン未接種者は約500万人と、全人口の1割以下であるにもかかわらず、集中治療病床の大部分を占めている。

東部ディジョンの救急医はフィガロ紙に「時々疲れ過ぎて、ワクチン未接種のコロナ患者に頭の中でひどいことを考える。『だから言っただろう』とか」と打ち明けた。南部ペルピニャンの看護師2人は「がん患者の手術が(人手不足で)中止になるのを見ると、怒りを覚える」「この仕事をして16年だが、初めて患者に共感できなくなった」と苦しい感情を吐露した。

一方で「囚人を受け持ったことがある」という別の看護師は同紙に対し、どんな患者でも必要な治療をすべきだと主張した。南部マルセイユの医師も「喫煙者やアルコール依存症患者への治療を拒否することはない」と強調。治療辞退の提案について「われわれの職業の意義に相反する」と非難した。

時事通信社

(Copyright©2007時事通信社)