認知症とその薬 -2006年9月1日掲載-

「えーっと、あの人誰だったかな?」と年を重ねると増える物忘れ。これは、脳の神経細胞の減少という老化現象で、誰にでも起こります。一方、認知症は、神経細胞の消失が早く、記憶力、判断力に障害が起こり、妄想などの精神症状を伴う脳の病気です。認知症は「アルツハイマー病」と「脳血管障害」に分けられ、患者さんは2005年度には約189万人に達しています。

原因が不明とされるアルツハイマー病は、神経細胞の減少と脳萎縮により知能低下、人格の崩壊がゆっくりと進行する病気です。初期症状として、昔のことは覚えているが新しいことは覚えにくく忘れやすいという特徴があります。

脳血管障害は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、その部分の血流や代謝量が減少し、脳の働きが悪くなる病気です。障害された部分により症状は異なるので「まだらボケ」と言われており、記憶障害はひどくても、人格や判断力は維持されることが多いのが特徴です。

いずれの症状においても、現在のところ薬物治療としての根治療法はありませんが、「アルツハイマー病」の症状を遅らせる薬として塩酸ドネペジルがあります。この薬は、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素の働きを抑え、神経の伝わりを良くし、認知症の諸症状の進行を遅らせます。ちなみに、この薬をパイロットに服用してもらったところ、フライトシミュレーションの成績が大幅にアップしたという報告があります。さしずめ頭の回転が良くなる薬といったところでしょうか。

高齢化に伴って、今後も認知症は増加することが予想されます。私たち薬剤師も認知症について正しく理解し、患者さんやそのご家族の方に優しい気持ちで接していきたいと思います。