痔の養生法 -2017年3月31日掲載-

はじめに

成人の3人に1人が痔の経験者であり、とても身近な病気ですが、「恥ずかしい」という気持ちがあるためか、誤った自己治療をして悪化させてしまう方も少なくありません。軽度の症状であれば、生活習慣の改善と薬の使用で改善できますが、外科的処置を要するものもあります。

肛門周囲の構造と痔の種類

イボ痔

直腸から肛門にかけて粘膜の下に静脈が網目のようにあります。便秘などでここに負担がかかると、うっ血して血管がイボのように膨らみます。

内痔核
痛みはあまりないが、出血がある。
外痔核
出血はあまりないものの、痛みを感じる。

きれ痔

硬い便や下痢によって肛門がきれたものをいいます。ひどい痛みのために便を我慢して、便がますます硬くなって、裂肛が慢性化して潰瘍化しポリープや皮膚の硬化や突起ができることで、肛門狭窄を起こすことがあります。

痔ろう

歯状線には肛門小窩という小さなくぼみがたくさんあります。ここから入った大腸菌などの細菌が肛門腺に感染し、炎症が起こり化膿した状態を肛門周囲膿瘍といいます。この症状が繰り返されることによって、膿が出た後に肛門の外と内がトンネル状に通じたものを痔ろうといいます。

痔の原因

便秘・下痢

便秘になると長い時間いきんで肛門に圧迫と刺激を与えうっ血します。また無理に硬い便を出すと肛門を傷付けてしまいます。下痢になると排便の勢いで肛門に負担がかかったり、下痢便が歯状線の小さなくぼみに入りこんだりすることで、痔ろうの原因になります。

妊娠・出産

妊娠時は子宮と腹圧により、腸から吸収された栄養を肝臓に運ぶ血管・門脈系が圧迫され、うっ血をおこします。また出産時には、排便時の何十倍もの力でいきむので、うっ血がひどくなります。

同じ姿勢を続けたり、力むことの多い仕事

車のドライバーやパソコン作業のデスクワークは、おしりに負担がかかります。また美容師や販売員等立ったままの仕事、重いものを持ち上げ、運ぶような仕事も腹圧をかけることが多く、おしりがうっ血しやすくなります。

香辛料やアルコールの取りすぎ

香辛料の大部分は体内に吸収されず便に混じるので、肛門を刺激します。またアルコールを大量に摂取すると下痢を起こしやすくなります。

運動不足・冷え、疲れやストレスによる血行不良・肛門部の不潔

運動不足や冷えは下腹部の血行不良を招き、肛門に負担をかけます。また疲れやストレスによる自律神経の乱れにより肛門の血行不良が起きて、痔を引き起こしたり、悪化させたりすることがあります。他にも、肛門を不潔にしていると肛門に炎症が起こりやすくなり痔を誘発します。

予防法

排便を整える

便秘は痔の一番の原因です。朝にお通じがあるよう排便のリズムをつけましょう。

食生活の改善

朝食をとり、食物繊維を意識してとり、暴飲暴食やアルコール等刺激物は避けましょう。

同じ姿勢を長く続けない

長時間同じ姿勢で仕事するときは、休憩して姿勢を変え体操しましょう。また円座や角座等の使用で肛門部の圧迫を減らすのも良いでしょう。

冷えに注意

座って長時間仕事するときは、ひざかけを使い、冷房の冷えには服装に注意して腰回りを冷やさないようにしましょう。

治療法

軽度のいぼ痔やきれ痔

病院では肛門科・肛門外科が専門ですが、ない場合は外科または消化器外科を受診してください。
なかなか病院に行けない方や軽症で病院に行きたくない方は薬局でご相談ください。
肛門周りをきれいに殺菌消毒する薬・炎症やかゆみをとる塗り薬・坐薬・注入軟膏・便秘を改善しうっ血をとる飲み薬等があります。

重症の痔核・切れ痔

内痔核が大きくなり肛門から常時脱出しているとき(図の「第3期」・ステージ3~4相当)は、手術が必要です。
切れ痔を繰り返し潰瘍化した2~3割の重症の方は手術が必要です。

肛門周囲膿瘍・痔ろう

肛門周囲膿瘍は外来で切開排膿(皮膚を切って膿の出口を作る)をおこないます。
痔ろうは、入院して手術をおこないます。重症になると大変ですので、できるだけ早く生活習慣を改善し、治療を開始しましょう。