飲酒による循環器疾患への影響
過度のアルコール摂取は、脳卒中等の循環器疾患、肝臓病等の疾患等、精神・身体的依存性など多くの問題の要因となっていますが、適量の酒は体に良いと言われます。
循環器疾患と飲酒との関係は、次のようになっています。
- 冠血管疾患
- 男性ではビール中瓶1本または日本酒1合くらい、女性は男性の半分程度の飲酒なら心臓関連死のリスクが20%減少する。
- 心不全
- ビール中瓶1本または日本酒1合程度の飲酒なら保護的に働く。
- 高血圧
- 高血圧があっても少量の飲酒ならば、循環器疾患関連死、心筋梗塞、脳梗塞発症に関連して飲酒が保護的に働く。
- 脳梗塞・脳出血
- ビール中瓶1本または日本酒1合くらいの飲酒は保護的に働く。ただし脳出血は少量であってもリスクは高まる。
- 抹消血管閉塞
- ビール中瓶1本または日本酒1合程度の飲酒はリスクを減らす。
- 不整脈
- 飲酒は心房細動を誘発する。
飲酒と疾患の相関性
世界保健機関では、飲酒は60以上もの病気を引き起こしていると報告しています。確かに大量の飲酒を続ければ多くの病気が発生することは間違いないでしょう。それでは、もう少し少ない飲酒量と健康リスクとはどのような関係になっているのでしょうか。既存の疫学研究から、病気の種類により様々なパターンをとることが示唆されています。
下記の図1に示すものが例に挙げられます。
特に図の(c)のようなパターンは非飲酒者に比べて、少量飲酒者のリスクがむしろ低く、さらに飲酒量が増えれば今度はリスクが非飲酒者より高くなるというパターンです。少量飲酒の疾患リスクの低下は、飲酒の健康面における利点を示唆します。このパターンは、その形からJカーブと呼ばれます。この形を示す疾患には虚血性心疾患、脳梗塞、2型糖尿病などが知られます。
循環器疾患では出血性疾患と不整脈疾患を除けばアルコールは良い方向に働いているようにみえます。しかしアルコールは心臓に良いことばかりかと言うと決してそうではありません。過度の飲酒は循環器疾患関連死を増大させ、乳がんや肝硬変、その他あらゆる疾患のリスク因子となります。また一気飲みは突然死のリスクを高めます。
適度な飲酒量は?
「健康日本21」における「節度ある適度な飲酒量」とは、純アルコールで1日平均20グラム程度とされています。ただし次のことに留意する必要があります。
- 女性は男性より少量が適量である。
- 少量の飲酒で顔面紅潮をきたす等アルコール代謝能の低い者では通常の代謝能を有する人よりも少ない量が適量である。
- 65歳以上の高齢者においては適切な支援のもとに完全断酒が必要である。
- 飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない。
次に、純アルコール10グラム(=1ドリンク)を酒に換算した量を示します。
酒の種類(基準%) | 酒の量(ml) | だいたいの目安 |
---|---|---|
ビール・発泡酒(5%) | 250 | 中ビン・ロング缶の半分 |
チュウハイ(7%) | 180 | コップ1杯または350ml缶の半分 |
焼酎(25%) | 50 | |
日本酒(15%) | 80 | 0.5合 |
ウィスキー・ジンなど(40%) | 30 | シングル1杯 |
ワイン(12%) | 100 | ワイングラス1杯弱 |
適量の酒とは、酒によって健康になるという性質のものではなく、適量のお酒を飲んでも良い環境、すなわち適度な運動をし、バランスの取れた食事をし、生き生きとした健康的な生活の結果として許される「節度ある適度な飲酒」のことを指すのではないでしょうか。
良いお酒の飲み方を知り健康的にお酒を楽しむことが大切です。