肺非結核性抗酸菌症(Non Tuberculous Mycobacteria:NTM症) -2021年9月30日掲載-

私たちは昔から日常に存在する菌やウイルスに対処しながら生きてきました。2019年12月に新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るい始めてから2年が経とうとしています。新型コロナウイルス感染症が肺に大きな影響を及ぼすことは知られていますが、肺に影響がある病気の中で2007年から13年ぶりに新たに治療ガイドラインが更新されたものがあります。それが肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)です。
今回は結核よりも近年患者数が増加している肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)について紹介していきたいと思います。

肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)とは

土や空気中には沢山の菌が存在しており、非結核性抗酸菌もその菌の一つです。「非結核」という言葉の通り結核菌とは異なり、人から人への感染はありません。
NTMは傷口から感染する場合もありますが、最も多いのは肺からの感染です。感染しやすい方の特徴として、痩せている中高年女性が多く、その他にも昔結核にかかったことがある方、慢性閉塞性肺疾患(COPD)にかかっている方、免疫抑制の薬を飲まれている方(ステロイドや抗リウマチ薬を服用中の方)に多いとされていますが詳しい因果関係は分かっていません。

肺非結核性抗酸菌症(Non Tuberculous Mycobacteria:NTM)症

症状

多く見られる症状:長く続く咳、痰や血痰
※特に血痰は比較的多くみられる症状です。
進行すると微熱や高い熱、体のだるさ、体重減少(例えば1年で5㎏の減量)、胸痛といった症状が出てきます。
症状の進行具合は人それぞれであり、中には感染しても症状が出ない方もいます。

治療法

最初の治療としては、クラリスロマイシン、エタンブトール、リファンピシンという3種類の薬を服用します。3種類飲む理由としては、世の中にNTMを完全に死滅させる薬がないことと、また治療期間が長期に亘るため3種類の薬を組み合わせることにより薬が効きにくくなるのを防ぐためとされています。クラリスロマイシンで治療して効果が見られない場合はクラリスロマイシンをアジスロマイシンという抗生物質に変更して経過を見ます。
また、重症化した場合に注射薬であるストレプトマイシン、カナマイシン、アミカシンのうち1種類を上記の飲み薬に追加して使用することもあります。
さらに、薬を飲んでも菌が陰性化しないときは、外科治療(肺切除術)を行う場合もあります。

治療期間

それでは、肺NTM症の治療薬はどれぐらい飲み続けるものなのでしょうか。
実は肺NTM症の治療期間は一般的には「菌陰性化後約1年」が1つの目安とされていますが、英国のように2年間の薬剤投与が推奨される場合もあり、明確な根拠となる治療期間については今後の課題とされています。「菌陰性化後約1年」に加え、さらに半年から1年程度治療期間を延長するのが一般的です。治療期間を延長することで再発が少なくなることが期待されていますが、非結核性抗酸菌は日常生活のなかに存在しているため菌陰性となるまでの治療期間も一人ひとり異なります。一旦治療が終了しても再発することも多いため、「完全に治す」というよりも、「上手く付き合っていく」病気と言えます。
NTMは水回りや土壌に多く存在するといわれており、予防策として主に次のものが挙げられます。

  • 菌が棲みつきやすいお風呂場やシャワーヘッドを定期的に掃除しましょう。掃除することで菌の増殖を防ぐことができます。掃除中と使用後には換気することも大切です。
  • 農作業や園芸など土を触る機会が多い方は作業中にはマスクや手袋をするようにしましょう。
  • 十分な睡眠とバランスの良い食事をとり、規則正しい生活を心掛けましょう。
  • インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンは接種するようにしましょう。
  • 1年おきに検診を受けるようにしましょう。(胸部単純X線検査に加えて、胸部CT検査も行うと早期発見につながります。特に50歳以上のかたは胸部CT検査も行うことをお勧めします。)