インフルエンザ治療薬について最近の話題(2019) -2019年2月28日掲載-

インフルエンザの種類

今シーズン、大きく話題に上ったインフルエンザですが、2/17現在までで約1,075万人が罹患しました。内訳としてはA型のAH3亜型、AH1pdm09の割合がとても多いようです。A型の特徴は、ウイルスが次々に変異することです。

感染症に一度感染すると、原因の抗原に対して抗体ができ、次に同じ抗原が体に入ってきたときは抗体が働いて感染を防いでくれます。ところが、A型はすぐに変異するために抗体がうまく働かないことがあり、一度感染しても別シーズンにまた感染したり、二度目でも症状が強く表れたりする場合があります。それに対してB型は変異しにくいので、初回は症状が強く出ますが二度目の感染からは悪化しにくいのが特徴です。

今シーズンは急激に感染者が増えたため大きく話題に上りましたが、昨シーズンの患者数は約1,458万人と言われますので、意外にもトータルではまだそれほど多くはないようです。(厚生労働省のインフルエンザ報道発表資料より)

インフルエンザの症状と診断

インフルエンザは、風邪症候群の中でも感染力が強く、全身症状や高熱を伴うため注意が必要です。また、時として肺炎や脳症を伴う場合があります。

回復の近道は、ウイルスをできるだけ早く減らすことです。症状発現時には早めに受診しましょう。最近の診断キットでは、綿棒で鼻や喉の奥をぬぐったり、鼻をかんだりして検体を採取して診断することで、1~15分ほどで結果がわかります。発病(37.5度以上の発熱)してから、早すぎるとウイルスの数が少ないのでインフルエンザ陽性と出ない場合があると言われていますが、早い検査キットではだいたい発病後6時間くらいでほぼ検出できるようになってきました。

抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」

そして、この冬一番の話題となった新しい抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」。ウイルスには、抗生物質(抗菌薬)は効かないことはご存知でしょうか? ウイルスはDNAやRNAのみの構造を持っており、宿主の細胞に寄生することで増殖していきますので、細菌とは異なります。よって、抗ウイルス薬が必要となります。

既存の抗ウイルス薬、ノイラミニダーゼ阻害薬は、増殖したウイルスが細胞から離れて別の細胞に移動するのを防ぐ薬でしたが、ゾフルーザは作用のしかたが異なります。キャップ依存性エンドヌクレアーゼという、ウイルスの増殖に必要な蛋白質の働きを邪魔することで、ウイルスが細胞の中で増えるのを防ぐ薬なのです。特徴としては、たった1回の内服で速やかにウイルスが減少することです。従来は、5日間連続で朝晩内服する薬か、1回8吸入(成人の場合)する薬が主でした。今までの内服薬は治療に時間がかかりますし、吸入薬はお年寄りや幼児には使用が難しく、咳で吸入した薬が飛び出してしまう光景をよく目にしていました。その点で、1回内服するのみで治療が終わり、速やかに効くというのは画期的です。

実際に、12歳以上65歳未満の患者データで、罹病期間(インフルエンザの症状消失まで)80時間を53.7時間まで短縮するという結果が出ています。12歳以下の小児では44.6時間です。また、体からウイルスの排出が止まるまでの時間は、通常96時間のところを24時間まで減らしてくれ、既存薬と比べてもかなり短縮されています。

つまり、症状が治まるまでの時間と、ウイルスを排出して感染を広げる恐れのある期間が従来よりも短く済むようになったということです。ただ、ウイルスの排出が止まったとしても、学校保健安全法により「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」は出席停止期間となりますので、ご注意ください。

副作用についても、主なものは下痢で重篤な症状はありませんので、現在わかっている範囲においては、安全性の高い薬と言えます。

ゾフルーザ耐性ウイルス

しかし、ニュースでも話題になったのがゾフルーザ耐性の変異ウイルス(I38変異ウイルス)です。これは、急にそういったウイルスが出てきたわけではなく、承認時にも確認されていたそうです。ゾフルーザを服用した後の患者から、ゾフルーザが効きにくかった少量の変異ウイルス株が検出されたもので、自然界で優位に存在するものではないようです。試験における変異ウイルス検出頻度は成人で9.7%、12歳未満の小児で23.4%でしたが、薬が全く効かないといったわけではないようです。変異ウイルスが存在している場合、ゾフルーザを服用したときの罹病期間が10時間程度延びますが、服用しない場合との比較では短くなります。ただ、12歳未満の小児に関しては、データ上で罹病期間が延びてしまう点が気になりますが、これは症例数がとても少ないため、変異株のせいで延びているのかどうかもまだ検討が必要な状態です。また、変異ウイルス存在時のウイルス排出時間においてもデータが存在していません。これから少しずつ明らかになってくることでしょう。