ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)について -2013年11月29日掲載-

ピロリ菌は国民の約1/3が感染していると言われています。感染によって胃潰瘍、十二指腸潰瘍、そして胃がんのリスクが高まることはここ最近、テレビや雑誌などでも取り上げられ認知度はぐんと上がってきています。ピロリ菌を除菌することで胃がんなどのリスクが減ることから厚生労働省が2013年2月から保険適用を認めました。

ピロリ菌ってどんな菌?

ピロリ菌は、正式にはヘリコバクター・ピロリという細菌で胃の粘膜に生息しているらせんの形をした細菌です。一度感染すると多くの場合、除菌しない限り胃の中に棲みつづけます。

なんで胃の中で生息できるの?

胃の中は食べ物の消化を助けるために胃液が分泌されています。
胃液には強い酸が含まれているので胃の中は強い酸性で、通常の菌は死んでしまいます。ピロリ菌は、「ウレアーゼ」という酵素を持っていて、この酵素を利用するとピロリ菌の周辺をアルカリ性の環境にすることができるので、胃酸を中和することによって身を守っているのです。
また、ピロリ菌はべん毛(菌の一部が尻尾のように糸状に伸びている部分)を持っており、胃内の強力な酸から逃れるためにべん毛を回転させ、酸度が弱くなっている場所に逃げ込むこともできます。

ピロリ菌はどうやって感染するの?

感染経路はまだはっきりとわかっていませんが、ピロリ菌は経口感染が大部分であろうと考えられています。
上下水道の完備など生活環境が整備された現代日本では、生水を飲んでピロリ菌に感染することはありません。また、夫婦間や恋人間でのキス、コップの回し飲みなどの日常生活ではピロリ菌は感染しないと考えられています。
ピロリ菌は、ほとんどが5歳以下の幼児期に感染すると言われています。幼児期の胃の中は酸性が弱く、ピロリ菌が生きのびやすいためです。そのため最近では母から子へなどの家庭内感染が疑われていますので、ピロリ菌に感染している大人から小さい子どもへの食べ物の口移しなどには注意が必要です。

どんな症状がでるの?

胃は新陳代謝が速いので、食べ過ぎや飲みすぎ、ストレスなどで胃壁が傷ついても、数日後にはすぐに修復されます。
ところが、ピロリ菌はずっと胃の中にとどまり続けるので胃の表面細胞を壊し、粘膜を薄くして炎症を起こし、その状態で刺激物などが触れると深い傷ができたまま、なかなか修復されず、慢性胃炎などの病気になることがあると言われています。
胃もたれや吐き気、空腹時の痛み、食後の腹痛、食欲不振など、もしかすると胃の中のピロリ菌が原因かもしれません。

ピロリ菌が関係すると思われる病気は?

幾多の研究が行われ、長期間のピロリ菌感染の持続により多くの病気を引き起こす可能性があります。

  • 慢性胃炎
  • 萎縮性胃炎
  • 胃過形成性ポリープ
  • 機能性ディスペプシア
  • 鉄欠乏性貧血
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
  • 胃MALTリンパ種
  • 特発性血小板減少症性紫斑病
  • 胃がん

ピロリ菌感染の検査法は?

保険診療において除菌前に行うピロリ菌感染診断には、下記の検査のいずれかを1回実施し、また除菌終了後、4週間以降にいずれかの検査により除菌診断を行いますが、陰性であった場合には別の検査法を用いて再検査することが認められています。

一般検査

  • 尿素呼気検査
    検査薬を飲み、一定時間経過した後の吐き出された息を調べて、ピロリ菌に感染しているか確認する。簡便で精度が高く、感染診断や除菌判断によく用いられる。
  • 抗体法
    血液や尿を用いてピロリ菌に対する抗体の量を測定。
  • 抗原法
    糞便中のピロリ菌の抗原の有無を測定。

内視鏡検査:内視鏡で細胞を採取して、検査する。

  • 培養法
  • 迅速ウレアーゼ法
  • 組織鏡検法

どうやって治療するの?

ピロリ菌の感染が確認された場合には、1次除菌として胃酸を抑える薬+抗菌薬2種類の3剤を朝夕食後に1週間投与する3剤併用療法が第一選択となっています。
酸環境下では抗菌薬の効果が大幅に低下してしまいます。強力に酸分泌を抑制することが除菌率向上に繋がるため、除菌療法には胃酸を抑える薬が加えられています。
1次除菌不成功の場合には、抗菌薬1種類を替えた3剤併用による2次除菌療法が保険で認められており、9割程度の除菌率が見込まれています。
2次除菌に失敗した場合、保険適応外で行われる3次除菌療法があります。

除菌療法の注意点は?

ピロリ菌の除菌療法で軟便や軽い下痢、または味覚がおかしいといった副作用が起こることがありますが、このような副作用が起きても日常生活に支障がない程度であれば、服用回数や量を減らしたりせず、薬を続けて飲むようにしてください。
除菌療法を行っている1週間は飲酒、喫煙を控える必要があります。ピロリ菌の除菌療法では、すぐに抗菌薬を使わなければ生命にかかわるというわけではありません。
年末年始や年度初め、旅行など飲酒の機会が多い時期を避け、無理なく服薬を継続できる時期に除菌療法を行ってください。